晩秋の戸隠・黒姫を訪ねて (144)

 11月の3連休を使って、あいにくの雨になったが、黒姫のペンションに泊まり、晩秋の戸隠・黒姫・妙高を訪ねるドライブに出かけた。

 2日目の朝は少し薄日も射す天気で、先ずは戸隠の鏡池に行くことになった。鏡池の名の通り、湖面には白樺と黄金に輝くカラマツの下に、戸隠の峰々が逆立ちしていて、しばらくはその風景に見とれていた。
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 その時、ここに白馬を加えれば、東山魁夷の絵画作品「白馬の森」そのものだと感じると、この絵画の中
に佇んでいる喜びが充ちてきた。
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 以前、訪れたことのある長野県信濃美術館に併設されている東山魁夷館で、この作品を見た。「風景は心の鏡である」という東山芸術の世界が少しわかった気がした。
  思い起こせば、戸隠へは大学時代の薬草観察旅行に出かけてから半世紀が経とうとしていた。劒の刃渡りとか蟻の戸渡りとかの痩尾根があって、かろうじて立ったまま渡り終えたが、女子学の中には尾根に跨ってこわごわ渡っていた光景を思い出した。

 戸隠には、大切な花がある。トガクシソウである。
トガクシソウ(戸隠草、学名:Ranzania japonica )は、メギ科トガクシソウ属の日本特産の1属1種の多年草で、別名、トガクシショウマ(戸隠升麻)とも呼ばれている。学名の由来には、何かといきさつはあるが、伊藤篤太郎が「日本で初めて学名をつけた人物」でトガクシソウは「日本人により学名を付けられた最初の植物」とされている。まだ、お目にかかっていないのが残念である。
 そんなことを思いながら、山道を下ってくると、山草を打っている店があった。遠くからでも、「シラネアオイ」の文字が読み取れたので、寄ってみた。
 この植物もトガクシショウマと同じくは日本固有種の1属1種である。ともに、紫色の可憐な花が咲く。買うかどうか躊躇ったが、やはり山草は山に置くのがよいと思い直し、その場を後にした。(上:トガクシソウ、下:シラネアオイ)
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 車も通る山道は、黄色いカラマツの落ち葉で絨毯を敷き詰めたように美しい。
 カラマツはマツ科カラマツ属の樹高20-40mになる日本で唯一の落葉針葉樹である。
 大学の詩吟部にいたころ、よく口ずさんだ北原白秋の「からまつ」の詩が甦える。
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当時、「からまつ」を詩吟風に朗読していたが、声を出さずに、心の中でかみしめるほうが、心に沁みわたる詩かもしれない。

 黒姫の温泉に浸かり、暖炉の暖かさを感じながら、フランス料理と極上のワインに酔いしれ、ペンションのオーナーとの会話に心安らいで、心地よい眠りについた。

 三日目の朝は、すっかり雨の上がったさわやかな一日となった。
 オーナーの計らいで、休みにも関わらず近隣の健康茶の工場見学ができた。
 ハトムギ、クコ、クマザサ、ハブ茶、エンメイソウの入った「えんめい茶」を製造している工場である。原料の粉砕、乾燥、混合などの工程を見た後、珍しい原料倉庫を見せてもらった。倉庫の中は、柔らかい照明に、高原のさわやかな風がそよぎ、モーツアルトの曲が流れている。植物にも安らぎを与えてやることが大切とのことであった。
 「えんめい茶」の五つの原料のうち、命名のもとになっている「エンメイソウ」について、少し述べておきたい。
 エンメイソウ(延命草)は、和名をヒキオコシといい、北海道を除く日本、朝鮮半島に自生するシソ科の多年草である。茎は四角で、高さ150~50cm、9月から10月にかけて、淡紫色の唇形花をつける。秋に地上部を刈り取り、乾燥したものを消化不良、食欲不振、腹痛などに用いる。数多くのジテルペン化合物が含まれ、抗がん作用のある成分も見つかっている。
 また、ヒキオコシの名前の由来は、その昔、弘法大師が山道を歩いていたとき、一人の行者が倒れていたのを、近くにある草をしぼり、その汁を行者の口に含ませたところ、たちどころに元気をとりもどして旅を続けることができたことから、病人を「ひき起こす」という意味で、ヒキオコシと呼ばれたことからきている。

 そのあと、リンゴ園に立ち寄り、もぎたてのリンゴ(王林、フジ)に舌鼓を打って、帰路に着いた。
 そうそう、戸隠の新そばもおいしい思い出の一つであった。
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