トリカブト(附子)アラカルト (149)

 「附子(ぶす)」と題する能狂言があります。古典語で語られるので、少しわかりにくいところがありますが、木下順二が翻案した「附子」は、古典の趣きを伝えながら、小学生にもわかりやすくなっています。
 話の筋は、主人が太郎冠者と次郎冠者に留守を頼むのですが、「附子という毒の入った桶には手を触れてはいけない」と言って出かけます。しかし、太郎冠者は好奇心から附子を見たくて仕方なくなり、次郎冠者と一緒にふたを開けると、中には砂糖が入っていました。二人は桶を奪い合い、その中の砂糖をすっかり食べてしまったのです。
 困った二人は一計を案じ、主人の大切にしている掛け軸を破り、天目茶碗を壊し、主人が戻ると、号泣しました。
 「留守中、居眠りをしないよう二人で相撲を取っていたところ、誤ってご主人の大切にしていた品々を壊してしまいました。お詫びに死のうとして附子を口にしましたが、何故か死ぬことができませんでした」と言い訳をして退散するという喜劇の筋書きです。

 一方、シエクスピアの「ロミオとジュリエット」の話は、ジュリエットが司祭からもらった不思議な薬(附子)は、飲めば呼吸が止まるが、42時間後には目覚めるというもの。
 ところが、それを知らなかったロミオは墓に駆けつけ、ジュリエットの墓の前で服毒し、目覚めたジュリエットがそれを見て、胸を刺すという悲劇です。

 さて、アイヌの熊狩りの毒矢にも用いられる附子ですが、漢方処方には重要な生薬のひとつです。原植物は猛毒のトリカブトです。その毒性は植物成分ではナンバーワンで、アコニチンと更に毒性が強いメサコニチンに代表されます。
これらの有毒アルカイドには、酢酸エステルと安息香酸エステルの結合があって、水の存在で加熱すると加水分解され、毒性が約150分の1に減毒のベンゾイルアコニチンになります。大阪大学の故高橋真太郎博士は、120℃,加圧水蒸気で蒸すと、生薬附子中のアコニチンが完全にベンゾイルアコニチンに変わることを確認し、「加工附子」を開発されました。この成分には鎮痛作用があります。生薬の附子は、この減毒された附子が使われています。
また、漢方生薬で体を温めるものとしては、附子、乾姜、朝鮮人参が代表的なものです。附子の「四肢逆冷を暖める」成分は、ハイジェナミン、コリネインで、共に血流量を増強する働きがあります。
日本薬局方に「ブシ」として収載されてから、ブシを含有する漢方処方の製剤が多くなりました。八味地黄丸、麻黄細辛附子湯、真武湯、桂枝加苓朮附、葛根加朮附湯などがありますが、鎮痛、利尿、抗リウマチ、強心作用を目的に使用されます。

 北半球に広がるトリカブトは300種近くありますが、生薬附子として使われるのは、日本では福島県白河、新潟県佐渡で栽培されてきた「白河附子」Aconium japonicum が主で、中国では四川盆地を中心に栽培されるハナトリカブトまたはカラトリカブトと呼ばれるAconium carmichaelid が主です。
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 トリカブトは花の形が鶏の鶏冠、烏帽子、雅楽の鳥兜に似ていることからの命名です。また、トリカブトの主根の塊根は黒く烏のような形から「烏頭」と呼ばれ、その両脇に翌年発芽する子根ができ、それが「附子」と呼ばれています。


 

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