狼との出会い(128)

 「鎖に繋がれたロボはかつての荒々しさを無くし、与えられた食べ物や水を一切口にしないまま死んでいった」
 シートンの動物記の「狼王ロボ」の最後のシーンである。小学校6年のときに読んだこの本の最後のフレーズは未だに覚えている。
 アメリカはニューメキシコ州のカランポーに、地元の人から「魔物」と呼ばれ恐れられる古狼ロボの退治を頼まれたシートンが、ロボを捕えるための、ロボとの戦いを綴った物語である。ロボが率いる群れは5,6頭程度、みごとに統率され、鮮やかな狩りをみせ、シートンの仕掛けたどのような罠にもかかることなく、シートンとの知恵比べが続いた。
 万策つきようとしたとき、伴侶のブランカが唯一の弱点と知り、捕獲の対象をロボからブランカへと切り替える。間もなくブランカは生け捕られ、それを知ったロボが冷静さを失い、シートンの仕掛けた罠に捕らわれてしまう。 そして、最後が、冒頭に掲げたシーンである。子供心に、何か清々しさと誇らしさを感じた瞬間だった。

 昨年の秋、信州伊那の駒ヶ根を訪れる機会があって、天台宗の別格本山の寺院「光前寺」を参拝した。庭園が国の名勝のひとつに指定されていて、霊犬早太郎説話でも知られている。
 この説話は、昔、光前寺に早太郎というたいへん強い山犬が飼われていたが、その頃、遠江の見附村では、何者かに田畑が荒らされ、困った村人は矢奈比売神社の祭礼の夜に村の娘を人身御供として、これを鎮めていた。あるとき、この地を通りかかった旅の僧が、祭りの夜にその正体を確かめようとした。そこに現れた怪物が「信州の早太郎おるまいな、早太郎には知られるな」と言いながら娘をさらっていったので、僧は早速信濃へ行き、光前寺で早太郎を和尚から借受けた次の祭りの日、早太郎は娘の身代わりとなって怪物(老ヒヒ)を退治した。
 戦いで深手を負った早太郎は、光前寺までたどり着くと和尚にひと吠えして息をひきとった。 早太郎を借り受けた僧侶は、早太郎の供養のために大般若経を光前寺に奉納した。これは寺宝として経蔵に保管されている。また、本堂の横に早太郎の墓がまつられている。
 この早太郎は山犬とのことで、おそらく狼であったろう。というのは、俗にオオカミの子を毛色が灰色がかっていることから「灰坊」ともいうが、早太郎は灰太郎のことで、オオカミの太郎からきていると思われる。
画像
画像

 ニホンオオカミは、明治38年(1905年、)奈良県東吉野村鷲家口(わしかぐち)にて捕獲された若いオスの個体を最後に目撃例がなく、絶滅したと見られている。
 オオカミは「大神」の義で、恐れられ、敬われた存在だった。狼信仰は各地でみられ、秩父の三峯神社や奥多摩の武蔵御嶽神社、静岡県周智郡の山住神社など、山間部を中心とした狼信仰が存在する。

 海外においても、モンゴルではオオカミは天上の神として崇められている。
 チンギスハーンが蒼き狼と呼ばれるのはモンゴルの歴史書「元朝秘史」の冒頭部分のモンゴル神話による。
 「上天より命ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白き牝鹿ありきテンギス湖渡りて来ぬオノン川の源に、ブルカン山に営盤して、生まれたるバタチカン(チンギスハーンの先祖)ありき・・・」

 一昔前に、内モンゴルを旅したとき、崩れかかった砂漠の中の長城と狼煙台が長い歴史を語りかけてきた。
 狼煙(のろし)をオオカミの煙と書くのは、オオカミの糞を混ぜて燃やすと、煙がまっすぐ高く上がると、地元の人の話であった。長城の狼煙台から狼煙台へと、蒼き狼の来襲を告げる煙が立ち上がる。そんな緊迫感を感じる旅でもあった。
画像

 ニホンオオカミの標本は、鷲家口で捕獲された剥製と頭骨が、ロンドン自然史博物館に、シーボルトが長崎の出島で飼育していた剥製が、オランダ国立自然史博物館に保存されている。

 一方、北海道に生息した大型のエゾオオカミは褐色の毛色だったとされていて、アイヌの人々とは共存していたが、明治以降、入植者の牛馬などを襲って害獣とされ、徹底的な駆除により数が激減し、1900年ごろに絶滅したと見られている。

 狼の名の付いた植物に、狼毒がある。
 漢方薬の原典「神農本草」に狼毒、狼毒根とあり、ジンチョウゲ科のStellera chamaejasme L.. あるいはトウダイグサ科のトウダイグサ属植物 Euphorbia fischeriana STEUD.、マルミノウルシ E. ebracteolata HAYATA などの根。またサトイモ科のクワズイモ Alocasia odora K. KOCH の根茎も利用される。
 先般、石垣島に行ったとき、いたるところに身の丈を超すクワズイモが茂っていた。
画像

 頑癬のかゆみに外用する。また、しこりに、大棗と蒸して食する。
 冷えによる胸腹の疼痛に、冷えの薬効のある呉茱萸、乾姜、附子などと用いたり、胸膜炎などによる咳嗽、胸部の痞満などに、旋覆花などと使用する。



この記事へのコメント

この記事へのトラックバック